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望まれた世界とは
「こんな世界、誰も望んじゃいなかった」
暗い空からひらひらと舞い落ちてくる白い雪。その闇に溶け込みそうな男の黒いコートに点々と吸い込まれていく。幸い、風は少ないから、冷たさは感じられなかった。
じゃあどんな世界なら望まれたの、という投げかけが、小さな声で聴こえてきた。男はそれに何も返さない。男もまたその答えは出ておらず、わからないから無言なのだった。
男の後ろに立っていたのは、漆黒のジャケットのフードを深く被った者だった。前までぴっちりの締まったジャケットの下から、膝下の足が見えている。
男はふっと笑って、振り返り、表情の見えないそいつを見据えた。
「こんな世界、誰も望んじゃいなかった。だけど、誰かが望んだからこんな世界があるんだ」
苦しげに笑む男は、最近恋人を失った。家を勘当され縁を切られて、安定した職にも就けぬ恋人だったが、それでも愛し合っていた。
ひっそりと静かに暮らしていただけなのに、恋人は大病を患い、手を尽くし看病した甲斐もなく、先立たれてしまった。
男はそのときほど神を呪ったことはなかった。
男を理解してくれた最愛の恋人に、最期の別れを言い、抱きしめていたとき。周囲の人々の怪訝な視線など、気にもとめていられなかった。
――恋人は、男だった。
世間に認められなくてもいい、周囲におかしいと言われてもいい。そりゃあ最初は戸惑ったけれど、強制的に社会に飼い馴らされるという普通なんて要らないと気付いた。
人が己の価値観を捨てる世界なんて。
男は一歩、足を踏み出し、地上へと落ちて行った。来世に期待するんだと淡く微笑みながら。
マンションの屋上に、既に人の姿はない。ただ。二人寄り添った写真が、風に煽られ、男の後を追うかのように落ちた。
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