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望まれた世界とは
「こんな世界、誰も望んじゃいなかった」
暗い空からひらひらと舞い落ちてくる白い雪。その闇に溶け込みそうな男の黒いコートに点々と吸い込まれていく。幸い、風は少ないから、冷たさは感じられなかった。
じゃあどんな世界なら望まれたの、という投げかけが、小さな声で聴こえてきた。男はそれに何も返さない。男もまたその答えは出ておらず、わからないから無言なのだった。
男の後ろに立っていたのは、漆黒のジャケットのフードを深く被った者だった。前までぴっちりの締まったジャケットの下から、膝下の足が見えている。
男はふっと笑って、振り返り、表情の見えないそいつを見据えた。
「こんな世界、誰も望んじゃいなかった。だけど、誰かが望んだからこんな世界があるんだ」
苦しげに笑む男は、最近恋人を失った。家を勘当され縁を切られて、安定した職にも就けぬ恋人だったが、それでも愛し合っていた。
ひっそりと静かに暮らしていただけなのに、恋人は大病を患い、手を尽くし看病した甲斐もなく、先立たれてしまった。
男はそのときほど神を呪ったことはなかった。
男を理解してくれた最愛の恋人に、最期の別れを言い、抱きしめていたとき。周囲の人々の怪訝な視線など、気にもとめていられなかった。
――恋人は、男だった。
世間に認められなくてもいい、周囲におかしいと言われてもいい。そりゃあ最初は戸惑ったけれど、強制的に社会に飼い馴らされるという普通なんて要らないと気付いた。
人が己の価値観を捨てる世界なんて。
男は一歩、足を踏み出し、地上へと落ちて行った。来世に期待するんだと淡く微笑みながら。
マンションの屋上に、既に人の姿はない。ただ。二人寄り添った写真が、風に煽られ、男の後を追うかのように落ちた。
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最後まで読まないで。(罪)
からりと乾いた空気が身に染みる。分厚いジャケットを羽織り、マフラーをして、防寒対策ばばっちりなのに、それでも寒い。
持ってきた小さなカイロを摺り寄せ、温まろうとするけれど、そんなものは周りの寒さに当てられてぬくもりをなくしていた。
風が吹くと、落ちた枯葉がからからと音を立てる。虎落笛も聞こえてくるし、より冷たさを感じるから、この時期の風は敵だ。
「さーむいっ!」
隣を歩く女が叫んだ。
「さむいさむーい! 風、まじ、なんなの!」
「……言っても寒さ変わらないだろ」
「寒いから寒いって言ってんの! あたしが冷え症なこと知ってるでしょ!」
彼女は一段と着込んでいて、もっこりとした服装に、マフラー、耳当て、手袋と完全装備だ。
寒いなら室内に入ればいい、と思うけれど……そうもいかない。いまは列に並ぶ真っ最中だ。
有名店限定販売のパンケーキ、それを目当てに朝から並んでいる。彼女はほかの友達と行く予定だったのだがドタキャンされ、なんだかんだ暇を持て余していた俺を誘ったらしい。
「あんたのジャケット、よこしなさいよ!」
「やだよ。俺が寒くなるだろう。しかもそれ以上どうやって着るんだよ」
「なによぉ、誘ってあげたのに!」
「あ、じゃあ帰ります。寒いんで」
「うそうそうそ! ごめん! 一緒に並んでてください! ひとりはいやあ!」
彼女の甲高い声を聴き流し、少しざわつき始めた前方を見ると、開店の準備に取り掛かられていた。
ようやく扉が開けられ、店員の「どうぞ」の声が聞こえる。それに気づいた彼女も、ようやっと笑顔になった。
「あいた! やっと入れるう!」
わりと早くから並んでいたので、入り口にも近く、扉向こうの暖かな空気がふんわりと肌を撫でる。前の何組かが入り席について、俺らも中へ案内された。
小洒落たアンティーク調のカフェ。ブラウンベースの店内には、ドイツ語文字のステッカーがちょこちょこ見られる。
二名席に誘導されて、彼女と向かい合って座る。限定メニューを食べに来た彼女と違って、ノープランだった俺は初来店のメニューをめくり、ぱらぱらと見た。
ふむ、やはりパンケーキが一番の推しらしい。珈琲もおすすめか。しかし目についたチョコのケーキが気になったので、それにすることにしよう。
店員がさっそく現れた。彼女は俺のことなんて気にせずさっさと呼んでいたらしい。互いに注文をして、俺は水に口を付けた。
彼女をちらりと見ると、携帯をいじっていて見向きもしない。俺も手持無沙汰なので、持参した小説を取り出した。
しばらくすると再度店員が現れて、パンケーキとチョコケーキ、それにセットで頼んだ飲み物を置いて去って行った。
彼女が行儀よく手を合わせ、「いただきます」と言ってパンケーキを食べ始める。一口食べて、んーっと唸ったあとに、口を開いた。
「おいしっ! 並んだ甲斐あった」
「それはよかったね」
チョコケーキもなかなか美味しい。
紅茶を一口飲んだ彼女が、じっとこちらを見てきた。
「……なに、食べたいの?」
「ううん、うれしいだけ」
なにが、と訊こうと思ったけれど、そういえば当初の目的の限定パンケーキを食べれたことかな、と思い当ったのでやめた。
すると彼女は、訪ねてもないのに、言ってきた。
「ほんとは、最初から、あんたとふたりで来たかったんだよね。ここじゃなくてもいい、どこでもいいから、あんたとふたりでどっか行きたかった」
どういうことだよ、と尋ねる間もなく。
「あたし、あんたのこと好きだからさ」
突然の告白。
「ま、聞かなかったことにしといて」
チョコケーキどころじゃあなくなった。
でも、本当に言わなかったかのように、ふつうに彼女に、俺はなんにも言わず、その日はカフェだけでお開きになった。
……なんのために、俺が珍しくこんな身支度したと思ってんだ。買ったばかりの黒のジャケットを着て、朝から髪をセットして。
次に彼女に会ったら、こんな寒い日につき合わされた仕返しに、サプライズをしてやろう。
だけど。
次、なんてなかった。
彼女は、遠く離れていってしまった。
会社の屋上から飛び降りて、即死。
遺書もあったそうだ。
話によると、会社の同僚数人に強姦されたらしい。泣き叫ぶ彼女を無視し、輪姦した。
俺が最後に彼女に会ったときに、聞かないフリをせず、ちゃんと自分の気持ちを伝えていればどうなっていたのかな。
そんなこと、いまさら思ったって仕方なかった。
『男性会社員数名を殺害した容疑で逮捕されていたY氏が、本日未明、死刑宣告をされました』
君と二度と会えないなら、君のために――。
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最後まで読まないで。(夢)
悪夢を見た。ひどい悪夢だ。
空を切る鳥が太陽を遮り、路地裏の生臭い風が漂う。いやに気分が悪くて、それでも走る。
私は逃亡者で、世界中の人々から非難されている。確か二人だけ仲間が居たと思う。所詮夢だ、名前なんて忘れた。
逃げている意味はただの手違い。ただの手違いで人を殺してしまった。その場で自主すればいいのに、隠れて逃げようとなんてしたから、私は立派な指名手配犯。
あんなことをしたのは私じゃない。私なんかじゃない。人をオモチャのように扱い、ツメを剥がし、眼球を抉り、舌を引き抜き、四肢を千切り、全身に針を刺していくなんて、人間のやることじゃないもの。
ゴミ箱の後ろに隠れたり、マンホールに下りて下水道に流れたり。それでもそれでも追手は来る。
二人の仲間は居なくなった。一人目は追いかけてきた警察官に撃たれた。足を撃ち抜かれ、走れなくなったところを捕らえられてしまった。もう一人は……なんだったっけ。
とにかく最悪な夢だった。最高の悪夢だった。
悪夢は目が覚めれば終わるんだ。正常な意識をもって『ああ、夢か』と胸を撫で下ろす。
夢でよかった。
現実では、私はもっと全うに生きるのだ。犯罪なんかに手を染めず、無難に、平凡に、普通に生活するのだ。
夢の中では、どちらが夢かわからなかった。夢が現実だって思ってた。
きっと、これが現実だよね。
ベッドに寝られるくらい、平穏な日常を送っているものが、私の日常。
外からはスズメの声が聞こえるし、カーテンの隙間からは太陽の光が差し込んできている。
大きく四肢を広げ寝転がったベッドの上で、引き戻された現実におはようをする。
平凡な日常って、誰の日常だったかしら。
夢から覚めた私は、きっと今から、オモチャのように扱われ、ツメを剥がされ、眼球を抉られ、舌を引き抜かれ、四肢を千切られ、全身に針を刺され、そして食べられるのだろう。私を見下ろす、憎悪に塗れた目をしたヒトたちの手によって。
私が悪夢の中で殺したのは誰だったっけ? 私が空腹によって食べた人の名前はなんだったっけ?
大きく四肢を広げられ、手足首を固定され寝転がった台の上で、引き戻された現実にさよならを告げる。
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わたしの好きなひとは、とても明るくて、人気者の有名なひと。
到底手の届くことはないけれど、眺めているだけでとても幸せな気持ちになれるから、いいの。
周りの子たちには、そんなのやめておけって何度も言われている。叶うはずないんだから、なんて言われても、恋ってそう簡単には心変わりできないの。
風にゆられて、雨に打たれて、それでも空を見上げて、きっとあなたのことを想うの。その瞬間、わたしは幸せになれる。
たくさんあるうちのたったひとつであるわたしを、きっとあなたは見たこともないし、気付いてもいないのだろうけど、「もしも」って考えたとき、わたしはそれだけで心躍る。単純かな。
そんな私の想い相手を、今日は見ることができていない。雲隠れしてしまった。雲って、ジャマね。
一日の半分しか見られる時間はなくて、それすらもないと、さびしくなっちゃう。
隣の子が笑う。あんたは本当にばかね、だって。
ばかでもなんでもいい。わたしは想うことをやめない。報われなくてもいい、楽しい恋なの。きっとわからないでしょうけど。
だってわたし、あなたを見ていられる時間が限られているんですもの。冷たい風がそろそろわたしの体を蝕んでくる。また来年に、あなたへの想いを馳せてゆく。
明日は、見られるかな。
その野原には、赤いコスモスが、一心にいつも月を見上げていた。
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昔、鬼あり。人、いとめでたしと崇め、されどいと恐ろしと言ふ。
そのかみ、「かなたへ逃げし。」「先じまはれ。」とぞ、暗き森へ響く。照るはたいまつ。村人の追へるは、ひとりの女、さらに、ひとりの鬼にありけり。
女ありけり。かの女のかたち清らなりと聞こゆる。この姿見らば、人、まことに心憎しとぞ思はるる。
女、名を惺と云ふ。人、「あへなきほどうつくし。」と言へば、「嬉しき。しかれども、われよりほかに候はむ。」と言いけり。その人、「たはぶれこそ上手なれ。」とて笑ふのみ。
あはれなる月の出づる日、薬草とるため近き森行かば、迷ひぬ。何者もなくさびしながらありくことしばらく、心細くて涙落ち、そこにゐる。いかほど経てか、前より明かり来、「そこ、誰かあるか。」と尋ぬれば、「あり。」とのみ応ふ。「かかるところはいかでかゐる。」と問はれ、少し置きて、「迷ひにけり。」とていらはば、現るる男、かすかに笑ひて、「たびたびあること。」と言ふ。男の様子見えて、思はず、「や、世に稀なるうつくしさかな。」と言へる。男、さらに笑ひて、「あたらしきことば。」と言ひけり。
男の手伸べ、「来よ。」と言ふが、立てなく、「げに、恥づことなるが。」と言ひつつ足を撫でば、男近づき、惺かかへて立つ。「さればよ。軽し。」と言へば、「おろせ。」など言へども、おろさずすすみ、やがてひとつ家に着きにけり。「いづこか。」と問はば、「わが家なり。」と言ひ漸うおろさらる。
☆ ☆
その昔、鬼がいた。人々は、とてもありがたいと崇め、そのくせとても恐ろしいと言った。
一方そのころ。
「向こうへ逃げたぞ!」
「先回りしろ!」
そう、暗い森に響く声があった。光を放っているのはたいまつだ。
村人が追っているのは、ひとりの女と、さらに、ひとりの鬼であった。
容貌が美しいと世間で評判の女が居た。その姿を見たならば、人々は、本当にすぐれていると思うのだ。
彼女は、名を惺と云う。
「どうしようもないほど美しい」
そう言われれば、彼女はにこりと笑って返した。
「嬉しい。けれど、私よりもほかに美しい人はいるでしょう」
「冗談がお上手だ」
返された者は、そう言って笑うばかりだった。
ある風情ある月の出ている日、彼女は薬草を採るために近くにある森に行って、迷ってしまう。
何者もいなくて心細いながら歩き回ること少しの間、さびしくて涙が落ちて、そこに座る。どれくらい経ってか、前より明かりが来た。
「そこに、誰かいるのか」
男の声だった。声を掛けられて、震える喉からやっとのことで声を出した。
「います」
「こんなところにどうして座っているんだ」
そう聞かれて、少し戸惑った。けれど答えないのも失礼かと思って。
「迷ってしまったのです」
そのことが恥ずかしくて、少しうつむいてしまった。
現れた男は、ほのかに笑った。
「ときどきあることだ」
月明かりに照らされ、男の容姿が見えた。
「ああ、世に稀である美しさだわ」
思わず漏れた言葉に、はっと口を押さえる。
「もったないことばだ」
そう言って男は笑った。
男は手を差し伸べてくる。
だけど立てなかった。足を挫いて、ズキズキと痛んでいたのだ。
「本当に、恥ずかしいことなのだけど」
それを察してか、男が近づいてきて、惺を抱きかかえて立つ。
「思ったとおり、軽いな」
「おろして!」
突然のことに顔を赤くして、暴れるが、おろされないで進み、そのままひとつの家に着いてしまった。
「ここは…どこ?」
「俺の家だよ」
その家の中で、漸く惺は下ろされた。 参加してます!↓ぽちっと!
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腐女子ですよ。
テンションの高い人、又はノリの良いひととなら気軽に絡めます。
コスプレ活動しつつ社会人で(逆)気ままに過ごしてます。
趣味で小説を書き詩を書き絵を描く。
Pixivに生息してます。
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